急に胸がドキドキして止まらない。夜中にパジャマが絞れるほどの汗で目が覚める。朝起きた瞬間から、鉛のように体が重い。人前で突然カーッと顔が熱くなる。理由もなく涙が出る。
病院に行きます。心電図を撮ります。血液検査をします。結果は「異常なし」。
「加齢のせいでしょう」「自律神経ですね」——そう言われて、処方箋も出ないまま帰される。
この不調は気のせいなのか。自分が弱いだけなのか。誰にもわかってもらえない心細さの中で、「もう歳だから仕方ない」と自分に言い聞かせていませんか。
「疳の虫」という言葉をご存じでしょうか。
赤ちゃんの夜泣きや子どもの癇癪を、昔の日本人は「疳の虫が暴れている」と表現しました。まだ発達途中の自律神経が、日中の刺激を処理しきれずに暴走してしまう現象を、昔の人は「虫」という言葉で表していたのです。
実はこれ、大人にも起きます。
40代を過ぎた頃から始まる「説明できない不調」。動悸、めまい、のぼせ、冷え、不眠、イライラ、涙もろさ。この状態を、私たちは「大人の疳の虫」と呼んでいます。
子どもの疳の虫は「神経系の未熟さ」がきっかけで起きます。大人の疳の虫は「ホルモンバランスの変動」がきっかけです。引き金は違いますが、起きていることは同じ。自律神経のコントロールが乱れて、体が誤作動を起こしているのです。
「検査で異常がない」という診断は、実は正しいんです。心臓そのものに問題はありません。血液の数値も正常範囲です。つまり、体の部品は壊れていない。
では、何がおかしいのか。
おかしいのは「部品」ではなく「コントロール」のほうです。体というハードウェアは正常なのに、それを動かすソフトウェア——自律神経という操作システムに不具合が起きています。
心臓は正常なのに、脳が「全力で動け!」と間違った指令を出す。体温調節は正常なのに、脳が「熱を逃がせ!」と誤った信号を送る。だからドキドキする。だから汗が出る。だからめまいがする。
これが「大人の疳の虫」の正体です。体の病気ではなく、コントロール系の誤作動。だから検査では見つかりません。でも、苦しさは本物です。
「ストレスが多いから」「体力が落ちたから」「精神的に弱いから」——自律神経の不調を、ご自身のせいだと思っていませんか。
子どもの夜泣きを「その子が弱いから」と責める人はいません。自律神経がまだ成長途中だから仕方ない、と理解しますよね。
大人も同じです。ホルモンバランスが変わる時期に、自律神経が揺れるのは体の自然な反応です。あなたが弱いわけでも、怠けているわけでもありません。
昔の人が「虫のしわざ」と言ったのは、「本人のせいじゃないよ」という優しい知恵でもありました。大人の不調にも、同じ知恵が必要ではないでしょうか。