先日、医療関係者に「かんのむし」のいわれなどの説明を
しました。せっかくまとめたので、ちょっと紹介します。
まずはかんむしの正体から。
もちろん、ほんとにいるわけありません。むかし某製薬
メーカーがCMで「えへん虫」と言っていて、監督官庁か
ら「そんな虫いないだろ」と怒られました。そのとき担当
役員が「じゃあ、かんのむしはいるんですか?」と切り返
したというエピソードがあります。
そのことが原因かどうかわかりませんが、私が会社に入っ
たころ、会社に厚生省(いまの厚労省)から電話があって、
「かんむしって何ですか?」と聞かれたそうです。ちゃん
と許可を受けた効能にあるのにね。
では、なぜかんのむしと呼ばれたか?
医学の発達していない昔は、病気の原因は体内にいる虫の
せいだと信じられていました。永禄11年(1568年)に書かれ
た針聞書(はりさきがき)という東洋医学書にその特徴と治
療法が書かれています。「虫が好かない」「虫の居所が悪
い」というのもその名残とか。
針聞書に載っている肝虫。いまの疳の虫とは字が違いますが。
(九州国立博物館蔵)
徐々に医学が発達し、病気の原因も徐々にわかってきまし
たが、小児が理由もなく泣く特異な症状だけがよくわから
ず、あいかわらず虫のせいにしてきた名残りではないかと
のことです。姑の手前、親のせいでもなく、子供のせいで
もなく、虫のせいにしたのも当時の智恵かもしれません。
かんむし退治
かんむしや夜泣きに悩まされたのは昔も同じで、いろいろ
な退治方がありました。
[虫封じ]
お寺や神社で虫封じの祈祷をしてもらう。
[虫を出す]
摩訶不思議なのは、赤ちゃんの手のひらに呪文を書き、塩
水で洗うとあら不思議、指の先から小さな糸状のものが。
これがかんむしだと言いはったようですが、真相は手を拭
いた布の繊維。むかしはこれを信じた人もいたようです。
(講演を聞いてた先生から「昔はお嫁さんが家から出る機会
がなかったので、虫封じに行くのはお嫁さんの息抜きだっ
たのでは」と言われ、なるほどなと思いました。)
[民間薬]
孫太郎虫、かたつむり、赤蛙、むかでなどを乾燥させて食
べさせる。子供に見せたら余計に絶叫しそうですが、たん
ぱく質の摂れない当時の栄養補給にはなったのでしょう。
いまでも売ってるんですね。ヘビトンボの幼虫とか。
名前がそのまんま。
かんむしと回虫
むかしは、かんむしとほんとの回虫・蟯虫とを混同したこ
ともあり、宇津救命丸も大正時代の一時期「虫下し」の成
分を入れていたこともあります。もっとも、当時回虫が多
かったので本気で回虫退治に入れてたのかもしれません。
次回は、現在のかんむし論を。